『葦ペンとの出会い』


『秩父街道より』
『秩父街道より』

 埼玉県秩父市はまわりを山に囲まれ、古い町並みが今も残る、絵になる町です。

 私が訪れたのは、紅葉も終わり、吹く風に肌寒さを感じる頃でした。私は小高い山の中腹から眼下の町を描こうとスケッチブックを広げました。風景よし、体調は万全、申し分の無い写生日和でした。


 「今日はいい絵が描けそうだ」

と思いつつ鉛筆を走らせました。

 二枚、三枚と描き進めるのですが中々思うように描けません。「どうも場所が悪いかな」

「いや、この鉛筆が良くないな」

などと理屈をつけたあげく、描くのをやめてしまいました。

 

 そして釈然としないまま道具をかたづけて帰ろうとしたとき、水辺に並んだ枯れ草が

 

 「オレをつかって」

 

 と、ささやくのです。

 おかしな奴だなあと思いつつ、枯れ草の一本を取りだしペン代わりに使ってみました。これが思いの外具合が良くて、晩秋の秩父風景が描けたのです。

 そうなると風の寒さも心地よくなり、目の前の枯れ草群は黄金色に見えてくるのでした。この枯れ草ペンこそが後に知った葦だったのです。


 それからというものは、秩父に限らず、東北や北海道、スリランカ、マレーシアと、出向くところで現地調達のペンを使いスケッチを楽しんでいます。
 今、私のアトリエには各地で秋に収集した葦ペンや竹ペンが数多くあります。そして今後はこの葦ペンで生計を立てるのもいいかなあと思っている次第です。